👤「SUS304はよく使うけど、SUS316って何が違うの?」
👤「コストはどれくらいかかる?」
ステンレス材料は耐久性に優れた材料ですが、コストが高くなりがちです。多少コストをかけても、信頼性を担保できる材料を求めている設計者は少なくありません。中でも使い所に悩むのがスーパーステンレスとも呼ばれるSUS316です。SUS316は強度・耐食性・耐熱性、すべてにおいて高いパフォーマンスを発揮する材料ですが、注意点があります。
今回はSUS316の特徴、SUS304や316Lとの違い、用途、メリット・デメリットまで徹底解説します。この記事を読めばステンレス材料選びの基準が明確になるはずです。ぜひ最後まで読んでいってください。
リョーユウ工業では、強度・耐食性・耐熱性を始めとした様々な金属部品のニーズに応えられるよう、SUS316を含め多様な金属加工に対応しています。金属加工50年で培った経験と実績を通じた素材提案・加工ノウハウ提供も行っています。
SUS316はSUS304よりも耐食性が高い材料
SUS316はステンレス材料の中でも特に優れた特性を持つため、スーパーステンレスと呼ばれています。使用頻度の高い部品点数ランキングでは3位に位置するほど広く使われている材料です。

(出典:『ついてきなぁ!材料選択の『目利き力』で設計力アップ』 國井良昌 著)
SUS304の耐食性をさらに高めるため、モリブデンという元素を加えて開発されました。高い耐食性と耐熱性を持つSUS316は、化学プラントや食品・医療分野、船舶関連などの要求基準の高い産業で用いられます。
化学成分と分類
SUS316は「オーステナイト系ステンレス鋼」に分類され、Fe(鉄)を主成分に以下の元素を加えた金属材料です。
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(出典:JIS G 4303:2012「ステンレス鋼棒」) |
ステンレス材の中でも一般的によく使われるSUS430やSUS304との違いは、モリブデンを添加している点です。モリブデンを加えることで金属表面の不動態皮膜がより強固なものになり、耐食性、耐熱性が向上します。化学プラントや海水中などの過酷な環境では、高い耐久性が要求されるため、SUS316が積極的に選ばれるのです。
SUS316の特性|強度・耐食性・耐熱性
強度
SUS316は炭素鋼やその他のステンレス鋼と同等以上の引張強さを持っています。高温環境下でも強度の低下が起こりづらく、安定した実力を発揮します。延性や靱性にも優れ、加工時の割れや欠けが起こりにくい材料です。
耐食性
SUS316の最大の強みは、過酷な環境でも劣化しない耐食性です。特に塩化物イオン(海水や化学薬品など)に対して強い耐性を発揮します。これは、モリブデンがステンレス表面の不動態皮膜を強化し、孔食やすき間腐食を効果的に防いでいるためです。
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錆びや腐食が発生しやすい過酷な環境でも、SUS316を使えば長期間信頼性を確保することができます。そのため、化学プラント、食品・医療機器、船舶など、腐食リスクの高い現場で選ばれています。また、酸やアルカリにも強いため、幅広い薬品ラインで安心して使えるのも特徴です。
耐熱性
金属における耐熱性はJISでは次のように定義されています。
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SUS316は高温でも酸化皮膜の形成が安定しており、600℃程度まで変形や強度低下が少ないのが特徴です。高温になると発生する変色や、酸スケールが少なく、工業炉や排気ガス装置など、温度変化の激しい場所で使用されています。

出典:山陽特殊製鋼株式会社
SUS316の用途
SUS316は耐食性と耐熱性の高さを活かして、さまざまな分野に活用されています。特に「腐食環境での長寿命」「高い衛生性が求められる現場」「海水や薬品が常に触れる設備」などのシーンで活躍しています。
化学プラント・装置
化学プラントや各種製造装置では、SUS316がよく使われます。強い酸や塩化物など腐食性の高い薬品を扱う、過酷な使用環境にも耐える部品を使用する必要があるためです。たとえば、熱交換器、反応槽、配管、バルブなどで採用されています。腐食環境でも長期間使用できるため、設備のメンテナンスや部品の交換頻度が減り、安心して使用し続けられます。
医療・食品機器
SUS316は、医療機器や食品機械でも採用されています。耐食性に加え、衛生面の品質維持に向いているためです。たとえば、手術用トレイやメス、点滴針、滅菌容器といった医療器具は、繰り返し洗浄や高温滅菌にさらされますが、SUS316であれば、錆や腐食の心配がほとんどありません。
食品分野でも、大型スチームケトルや配管、充填ノズルなど、衛生基準が厳しい場所で使われています。腐食が進んだ部分は表面の凹凸や微細な穴に雑菌が入り込み、菌が繁殖するため衛生面の問題がでてきます。錆びづらく、いつでもなめらかな表面を維持できるSUS316は、清潔さを保ちやすい点も選ばれる理由のひとつです。
船舶・海洋設備
海水や塩分の多い環境下でもSUS316の高い耐食性が効果を発揮します。船舶の部品や海洋プラント、港湾設備などで幅広く使われています。たとえば、海水ポンプのシャフトやバルブ、デッキ周辺の手すり・配管など、直接海水に触れる部品にも使われています。
一般的なステンレス(SUS304等)では錆びやすい場所でも、SUS316なら長期間にわたり高い耐久性を維持できます。また、カソード防食との併用で、設備寿命をさらに延ばすことも可能です。このように、SUS316は過酷な海洋環境でも安心して使える金属材料として使われています。
SUS316の加工性・加工方法
SUS316の特徴は強度、耐食性、耐熱性だけではありません。加工のしやすさもメリットの一つと言えます。SUS316は難削材と言われることもありますが、ポイントさえ押さえれば量産や精密加工にも十分対応できます。ここからは、切削加工、プレス加工、溶接加工、それぞれの加工法で気を付けるべきポイントについて詳しく見ていきましょう。
切削加工の注意点
モリブデンの添加によりSUS316は耐食性・耐熱性が高くなる一方、加工硬化しやすく、靭性が大きくなります。
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SUS316は加工硬化しやすいため、切削に用いる工具は摩耗しやすくなります。また靭性が高いため、材料を切り込みにくく、切削抵抗が大きくなります。これが難削材と言われる理由です。切削加工ではワークの硬さ、靭性に負けない超硬合金の工具を使用する必要があります。加工熱が高温になりやすいため、高圧クーラントを使用して加工中はワークと工具を十分に冷却することもあります。
切削速度や送り速度はやや低めに設定し、無理な切り込みを避けることで、安定した加工が可能となります。切削後はバリや微細なひび割れが発生しやすいため、仕上げ工程で丁寧に検査、後処理を行うプロセスが重要です。適切な工具・条件で加工をすれば、SUS316でも高品質な仕上がりを実現できます。
プレス加工の注意点(曲げ・絞り)
SUS316は延性と靱性に優れているため、プレス加工には適しています。しかし、曲げ・絞りの工程では注意が必要です。
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加工硬化に起因する、材料の割れ、破れに注意が必要です。
溶接加工の注意点
溶接のように局部的に高温にさらされる状況になると、その近傍ではCrの量が減り、不動態皮膜が弱体化します。これを鋭敏化と呼びます。溶接する金属中の炭素の量が多いほど鋭敏化が進むため、SUS316のように比較的炭素量の多い鋼は溶接部に腐食が発生しやすくなります。
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溶接欠陥のリスクを軽減したい場合は、より炭素量の少ないSUS316Lを使います。さらに溶接後は、酸洗いやパッシベーション処理を行うことで、表面の酸化皮膜をしっかりと再生し、耐食性を保つことができます。
SUS316と他のステンレス鋼との違い
SUS304/430との違い(耐食性・コスト)
ステンレス材料の利用頻度はSUS304、SUS316、SUS430の順で高いと言われています。さらにこの3つの材料で全ステンレス材料の80%を占めるとも言われています。ここからはステンレス材料の主役、SUS316とSUS304、SUS430の物性の違いを比較していきます。
【分類の違い】
| 種類 | 分類 | 磁性 |
| SUS316 | オーステナイト系 | ✕ |
| SUS304 | オーステナイト系 | ✕ |
| SUS430 | フェライト系 | ◯ |
ポイント
◯オーステナイト系は高性能で高価、フェライト系は低価格でコスパよし。
◯オーステナイト系は磁石につかない、フェライト系は磁石につく。
【化学成分の違い】
| 種類 | Cr(クロム) | Ni(ニッケル) | Mo(モリブデン) | Mn(マンガン) | Si(シリコン) | C(炭素) | P(リン) | S(硫黄) |
| SUS316 | 16% | 10% | 2% | 2% | 1% | 0.08% | 0.045% | 0.03% |
| SUS304 | 18% | 8% | 0% | 1% | 1% | o.08% | 0.045% | 0.03% |
| SUS430 | 16% | 0% | 0% | 1% | 0.75% | 0.12% | 0.04% | 0.03% |
ポイント
◯SUS316はMo(モリブデン)の添加により、耐食性、耐熱性アップ
◯SUS430はMo(モリブデン)、Ni(ニッケル)を添加してないため、低価格
【物性値の違い】
| 種類 | 引張強度 | 耐食性 | 耐熱性(※) |
| SUS316 | 520N/mm2 | ◉ | 800℃ |
| SUS304 | 520N/mm2 | ◯ | 700℃ |
| SUS430 | 450N/mm2 | △ | 500℃ |
※引張強度300N/mm2以下になる温度
ポイント
◯SUS316は強度、耐食性、耐熱性がすべての項目で一番高い
SUS316Lとの違い(炭素量・加工性)
SUS316と似た材料にSUS316L があります。「L」はLow Carbonの頭文字で、SUS316LはSUS316の低炭素版として開発されました。主な目的は、溶接による腐食対策です。SUS316を溶接すると、高温部に炭化クロムが生成され、粒界腐食を引き起こす課題がありました。炭素量を調整することで、炭化クロムの生成をおさえ、溶接部の耐食性を高めることができます。
【化学成分の違い】
| 種類 | Cr(クロム) | Ni(ニッケル) | Mo(モリブデン) | Mn(マンガン) | Si(シリコン) | C(炭素) | P(リン) | S(硫黄) |
| SUS316 | 16% | 10% | 2% | 2% | 1% | 0.08% | 0.045% | 0.03% |
| SUS316L | 16% | 12% | 2% | 2% | 1% | 0.03% | 0.045% | 0.03% |
ポイント
◯SUS316LはSUS316の低炭素版で、溶接性アップ
◯SUS316LはSUS316よりも強度が劣るが高価
SUS316のデメリットはコストと供給リスク
コストは鋼板の4倍
SUS316はSUS304に比べて強度、耐食性、耐熱性に優れていますが、一方でコスト面ではデメリットがあります。材料価格が高いだけでなく、加工時に工具が摩耗しやすく、切削条件も厳しいため、製造コストが全体的に上がる傾向があります。一般的な炭素鋼を1とした場合、SUS430は2倍、SUS304は3倍、SUS316は4倍くらいのコスト感を覚悟する必要があります。たとえば、一般的な炭素鋼の材料費が100円の場合、SUS316は4倍の400円になります。
材料の供給リスク
SUS316はSUS304ほど流通量が少ないため、納期に注意が必要です。標準品としてすぐに手に入るとは限らず、手配に時間がかかるケースもあります。そのため、SUS316を採用する際は、必要とされる耐食性や信頼性がどこまで必要かを確認し、コストや加工性、納期とのバランスを考慮することが重要です。
SUS316は高い性能を備えた優れた材料ですが、その分コストや調達の難しさといった課題が残ります。
まとめ:SUS316の特性を理解して賢く活用しよう
SUS316は、強度・耐食性・耐熱性と三拍子揃った非常に優れた材料です。しかし、材料費を含めた製造コスト、入手性に注意が必要なため、設計時には「どんな環境でどの性能が本当に必要か」をしっかり見極めることが重要です。素材の特性を正しく理解し、SUS316を適材適所で選択することで、長期的な信頼性とコストパフォーマンスの両立が可能になります。
もしSUS316の用途や加工についてお悩みがあれば、経験豊富な加工業者への相談をおすすめします。リョーユウ工業にはSUS316の加工経験豊富なスタッフが多数在籍しています。現場に最適な素材選びで、より安心・安全なものづくりを実現しましょう。
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