👤「炭素鋼の種類や選び方に迷うことが多い」
👤「SS材、SC材、SK材の違いがよくわからない」
ものづくりで頻繁に登場する炭素鋼ですが、特徴の違いや選定方法で悩む設計者の方は少なくありません。間違った材料選びはコスト増や品質トラブルに直結するため、正しい知識の習得が重要です。今回は金属加工の実績50年のリョーユウ工業が、初心者でも直感的に理解できるよう、基本から代表的なグレードごとの特性、選定ポイントまで分かりやすく解説します。
この記事を読めば炭素鋼に対する理解が深まり、自信を持って適切な材料を選べるようになります。炭素鋼の種類や使い分けに悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
炭素鋼は鉄に炭素(のみ)を加えた合金

炭素鋼は金属元素の鉄(Fe)に炭素を加えた金属材料の一つです。鉄は脆くて錆びやすいため、工業用途でそのまま使われることはありません。炭素の含有量によって強度や硬さ、耐久性を変化させ、用途に合った材料を作り出せるのが特徴です。
◯用語
| 鉄 | 自然界にある原材料 |
| 鋼 | 鉄に、少量の炭素を加えた合金 |
| 鋳鉄 | 鉄に、多量の炭素を加えた合金 |
| 鉄鋼 | 鉄に、炭素を加えた合金の総称 |
| 炭素鋼 | 鉄に、炭素「のみ」を加えた合金 |
| ステンレス鋼 | 鉄に、炭素とクロムを加えた合金。 |
「鉄鋼」という分類の中に、「鋼」と「鋳鉄」があり、「鋼」の中に「炭素鋼」と「ステンレス鋼」があります。大きなくくりを押さえたところで次に進みましょう。
炭素鋼は「炭素の量」と「製造方法」で分類される

出典:日本鋳造工業会中国四国支部(色付きは筆者)
原材料となる鉄(Fe)に少量の炭素を加えたものを炭素鋼と呼び、多量の炭素を加えたものを鋳鉄と呼びます。さらに、炭素鋼は炭素の含有量と製造方法の2つの観点で分類されます。
炭素量による分類
低炭素鋼
低炭素鋼は、炭素含有量が0.02〜0.25%の鋼材です。柔らかくて加工性が非常に高いため、自動車のボディや建築用の鋼材、パイプなど大量生産される部品に広く使われています。また、溶接や曲げ加工にも適しており、コスト面でも優れているのが特徴です。ただし、強度や耐摩耗性は中・高炭素鋼に比べてやや劣ります。
代表的な低炭素鋼|SS材(一般構造用圧延鋼材)
SS材は「Structural Steel」の略で、構造物の材料としてよく使われます。橋やビル、工場などの建築物や、機械フレーム、架台、ブラケットなど幅広い分野の基礎部材として使われ、強度・溶接性・加工性のバランスが良いため設計・製作がしやすい点が特徴です。
価格が比較的安く、大量生産に適している点もSS材が選ばれる理由のひとつです。溶接や切断、曲げなどの加工も容易なため、幅広い用途で使われています。ただし、耐食性の低さが難点で、屋外使用時は塗装やメッキなど防錆処理が必須です。
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(※SS材の中でも含まれる炭素量によってグレードが幅広くあり、中には中炭素鋼に分類されるものもあります。)
中炭素鋼
中炭素鋼は、炭素含有量が0.25〜0.6%の鋼材です。低炭素鋼よりも硬度と強度が高く、機械部品やシャフト、ボルト、歯車などの製造に多く利用されています。焼入れや焼戻しなどの熱処理によって、さらに性能を高めることができる点も大きなメリットです。強度と加工性のバランスが良いため、用途が広いのも特徴です。
代表的な中炭素鋼|SC材(機械構造用炭素鋼鋼材)
SC材は機械構造用炭素鋼鋼材と呼ばれ、「S=Steel(鋼)」+「C=Carbon(炭素)」を意味します。主にシャフト、歯車、ピン、ボルトなど、機械内部で力を受ける重要部品に使われます。炭素含有量が多いため、強度・硬度・靱性のバランスがとりやすく、幅広い用途に対応できます。SC材は、焼入れや焼戻しなどの熱処理によって表面の硬度や内部の靱性を調整できるのが特長です。SS材は炭素量が少ないため向いていません。
加工後の寸法安定性や耐摩耗性にも優れており、精密さや長寿命が求められる部品に適した材料です。例えば工作機械の主軸やロボットアームのジョイント部、産業機械の駆動部品など、摩耗が激しい環境下でも使用し続けられる耐久性を持っています。SC材は強度・耐摩耗性・靱性のバランスに優れ、設計の自由度が高い素材です。
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(※SC材の中でも含まれる炭素量によってグレードが幅広くあり、中には低炭素鋼に分類されるものもあります。)
高炭素鋼
高炭素鋼は、炭素含有量が0.6%以上の鋼材です。高い硬度と耐摩耗性を持ち、刃物や工具、バネ、軸受けなど、摩耗が激しい過酷な条件下で使われる部品に適しています。ただし、炭素量が多い分だけ脆くなる点が難点で、衝撃を受けやすい箇所への採用には注意が必要です。加工難易度が上がるため、用途に合わせた選定と適切な加工技術が求められます。
代表的な高炭素鋼|SK材(炭素工具鋼鋼材)
SK材は「Steel Kougu(工具)」の略で、刃物や金型、工具など極めて高い硬度と耐摩耗性が求められる部品に使われます。炭素含有量が0.6~1.5%と多く、焼入れや焼戻しなどの熱処理で高い硬さと耐摩耗性が実現でき、ノコギリやカッター、ドリル、金型、ばねなど大きな力や摩擦がかかる部品に適しています。一方で、SK材は硬度が高い分脆くなる傾向にあり、衝撃で割れやすいという弱点があります。
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炭素含有量によって特性の違いがグラデーションで変化するのが炭素鋼の特徴です。設計や材料選びのときは、使いたい部品の用途や求める性能に応じて、適切な炭素鋼を選べるようになることが重要です。リョーユウ工業では、ほぼすべての炭素鋼を扱っています。困ったことがあれば、ぜひ当社までご連絡ください。
製造方法による分類
出典:日新製鋼
SPH材(熱間圧延鋼板)
SPH材は「Steel Plate Hot-rolled」の略で、熱間圧延という製法によって作られる鋼板です。通称「黒皮(クロカワ)」と呼ばれ、黒い見た目をしています。金属を高温(通常900℃以上)でローラーにかけて延ばし、所定の厚さに仕上げます。生産効率が高く、厚みのある鋼板を低コストで大量に製造できるのが大きな特長です。
SPH材は自動車のフレームや建築用の骨組み、産業機械の構造部材、土木資材など、強度や加工性が重視される用途で幅広く利用されています。厚みは1.2~16mm程度と幅広く、曲げや溶接などの加工もしやすい材料です。加工硬化が少なく、割れやすい複雑な加工にも対応できる点も特徴です。内部応力が少ないため、後加工や溶接後の寸法安定性にも優れています。
SPC材(冷間圧延鋼板)
SPC材は「Steel Plate Cold-rolled」の略で、冷間圧延という製法によって作られる鋼板です。通称「磨き(ミガキ)」と呼ばれ、光沢のある滑らかな見た目をしています。SPH材を室温でローラーにかけてさらに薄く延ばし、表面がなめらかで寸法精度の高い鋼板に仕上げます。SPC材は見た目や寸法精度が重視される自動車ボディや家電、建築内装材、OA機器などで使われています。厚みは0.3~3.2mm程度と薄く、部品の軽量化や加工性向上に役立ちます。
冷間圧延による加工硬化により、同じ厚みの熱間圧延鋼板よりも強度や硬さが高いのも特長です。寸法精度も高いため、精密部品や複雑形状のプレス加工にも適しています。コストパフォーマンスが高く、ものづくりの現場では主役級の材料と言えます。
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炭素鋼の頻出グレード
SS材の代表格はSS400
SS材の中でもっともよく使われるグレードがSS400です。SS400の「400」は引張強さ400N/mm²以上を意味し、強度バランスに優れた材料と言えます。橋梁やビル、工場建屋、産業機械のフレームや架台、ブラケットなど、あらゆる構造物の基礎部材として利用され、大量生産に向いている点が大きな魅力です。強度・加工性・コストのバランスが非常に良く、溶接や曲げ、切断など様々な加工に対応しやすいため、設計から組立・施工まで効率的に進められます。
品質が安定しているため、設計者も安心して使える素材です。一方で、耐食性がそれほど高くないため屋外使用時は、塗装やメッキなどの防錆処理が必要となります。強度が必要な場合は、より炭素量の多いSC材や、耐摩耗性が必要な場合はSK材を検討する必要があります。
SC材の代表格はS45C
SC材の中でもっともよく使われるグレードがS45Cです。S45Cの「45」は炭素含有量0.45%を意味し、SC材の中でも中間的な位置づけです。強度・硬度と加工性のバランスが優れており、機械部品や自動車部品、軸や歯車、ピン、シャフトなどに多く使われています。焼入れ・焼戻しなどの熱処理で表面硬度と内部の靱性を両立でき、摩耗や衝撃に強く耐久性が求められる場面に適した材料です。
未処理のままでも一定の強度があるため、コストや納期でもメリットがあります。ただし、炭素量が増える分、低炭素鋼より加工はやや難しくなり、高精度切削や穴あけ、ねじ切りには工具や条件の工夫が必要になります。S45Cはバランス型炭素鋼として、設計者は押さえておきたい材料です。
SK材の代表格はSKD11
SK材の中でもっともよく使われるグレードがSKD11です。SKD11は、冷間ダイス鋼(合金工具鋼)の一種であり、金型材料として広く使用されています。「S」はSteel、「K」は工具鋼(Kogu)、「D」はダイス鋼(Die)を表し、JIS規格における冷間加工用の工具鋼として分類されています。SKD11は、クロムを主成分とした高炭素・高合金鋼であり、高い硬度・優れた耐摩耗性・高い靱性を兼ね備えています。打ち抜き・せん断・曲げなどの金属加工金型をはじめ、プレス用部品・精密パンチ・スリッター刃など、厳しい加工条件に耐える部品に適しています。
熱処理により高い硬度が得られ、焼戻し後も靱性を保持できるため、割れにくく長寿命な金型材として知られています。焼入れ後の寸法変化が少ない点も、金型材として選ばれる理由です。ただしSKD11は非常に硬いため、加工にはSKD11に負けない工具や、適切な切削条件の設定が必要となります。
まとめ:炭素鋼の基礎を押さえよう
今回は炭素鋼の特徴と選定ポイントについて解説しました。
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炭素鋼は、炭素含有量のバリエーションに応じて様々なグレードに分かれています。そのため、「わかりづらい」という印象を与えているかもしれませんが、それだけ幅広いニーズに対応した材料が用意されているということです。
設計者のみなさんはまずは、炭素鋼の代表格であるSS400、S45C、SKD11の特徴を押さえておけば、材料選びの基準が固まってくるはずです。用途に応じて適切な炭素鋼を選び、競争力のある部品・製品づくりをしていきましょう。
リョーユウ工業では、炭素鋼の材料選定アドバイスも行っています。お客様のニーズに合わせて加工、表面処理までトータルにサポートしていますので、困ったときはぜひご相談ください。
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